オフクロサマ

智香がキツク下唇を噛み締めたとき、ふいに後方で人の足音が聞こえた。


ふたりが同時に振り向いたが、すでに遅かった。


その人影たちはすでにふたりの真後ろにいて、ひとりがふといロープを持っていたのだ。


「捕まえろ！！」


村人の男性が叫んだ。


逃げようと足を踏み込んだ智香は焦りのあまり体のバランスを崩してそのまま転倒してしまう。


「智香！」


助けようと手を伸ばした裕貴の体は後ろから男性に羽交い締めにされた。


「離せよ！　なにすんだよ！」


必死に身を捩って逃げ出そうとするが、男性の太い二の腕が裕貴の体を潰してしまいそうなくらいに強く締め付けてくる。


倒れ込んでいた智香の体には太いロープが撒かれて、手を後ろに組まされた状態で拘束されていく。


「やめて！　離して！」


ロープでがんじがらめにされた智香は無理やり立たされて歩き出す。


「智香！　智香！」


裕貴は肺が潰れそうなほど叫んだ。


目を見開き、どうにか智香に追いつこうと体を捻った。


しかし、やはりびくともしない。


「安心しろ。同じ場所に連れてってやるから」