オフクロサマ
「もう夕方だからいいけど、電気も止められてるから昼間どれだけ熱くなるか……」


智香に言われて裕貴はようやくそれだけの時間が経過しているのだとわかった。


自分が気絶している間に智香は無理やりここへ連れてこられて、なにもなも奪われた上で閉じ込められたのだ。


その上電気まで止められていたなんて、どれだけ不安だっただろう。


智香の気持ちを考えるといたたまれなくなって裕貴は智香を抱きしめていた。


華奢な体は今はもう震えていない。


少し熱を持って汗ばんでいるようだ。


「電気が使えないってことは冷房がつかないってことか」


智香を抱きしめたまま裕貴は言った。


このままずっと離したくないと思ってしまう。


「うん」


智香が心細げに頷く。


「俺たちを殺す気なんだな」


わざわざ自分たちで手をくださなくても、真夏に冷房のきかない建物内にいれば勝手に死ぬ。


そう考えているんだろう。


公会堂の窓は狭くて人の出入りができるような大きさはない。


その窓は今は全開にされているけれど、とても室温を下げるほどの効果は望めなかった。
< 156 / 220 >

この作品をシェア

pagetop