オフクロサマ
「そうじゃなくて、裕貴と結婚できなかったことを後悔するかも」


智香の言葉に裕貴はむせてしまいそうになった。


まさかここでそんな話を聞くことになるとは思ってもいなかった。


「俺と結婚したいの?」


「裕貴は私と結婚したくないの?」


少し口調が強くなる。


「したいと思ってるよ」


「そうでしょ?」


ねぞべり、真っ暗な天井を見上げてする会話とはとても思えなかった。


智香の声はどこか楽しげで、将来結婚した後のことを語り始めていた。


「子供はふたり。だけど裕貴は安月給なの」


「なんだよそれ。俺どんな会社に就職してんだよ」


「三流企業か、町工場ってことろかな」


「ひっでーな」


言いながらもつい笑ってしまう。


今頑張っているつもりでも、将来はそんなものかもしれない。


どんな未来でも、きっと隣に智香がいれば幸せなんだろうけれど。


「だからさ、こんなところでは死ねないんだよ」


「うん。そうだな」


「未来の私達のためにも、死ねないんだよ」


「町工場で働くために?」


「それも立派な仕事だよ」


智香は今どんな顔をしてるんだろう。
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