オフクロサマ
友香の右腕にはロッカーの鍵と浮き輪貸し出し札のふたつがぶら下がった。


これでOK。


その間にも陽太は今か今かとじだんだを踏んでプールに入るのを待っていた。


「よし、じゃあ行こうか」


言われて一目散にまた駆け出す。


大人たちの合間を縫って一気に大人プールまでかけていくと、入る前に一度振り向いた。


その先には智香たちがいる。


智香が微笑んで頷くと陽太はプールのはしに腰をかけてぱしゃぱしゃと手で水を浴び始めた。


学校でプールに入る前に必ずやっていることなんだろう。


その光景が微笑ましくて思わず笑ってしまった。


十分水に体をならしたあとようやく足先をプールにつける。


入ろうとしても浮き輪が大きくて邪魔になり、そのままでは入れない。


「先に入ってやるから、ちょっと待ってろ」


裕貴が軽く準備運動をして水の中に飛び込んだ。


水しぶきが跳ね上がり、空中に虹をかける。


「ほら、おいで」


一旦浮き輪を外した陽太に両手を差し出すと、陽太はおずおずと手を伸ばした。


陽太はまだ泳げなくて、浮き輪がないことに不安げな表情を浮かべている。
< 17 / 220 >

この作品をシェア

pagetop