オフクロサマ
☆☆☆

恋をしてもフクロダキの生活はなにも変わらなかった。


醜い姿でせっせと仕事をし、微々たる給料をもらう。


これじゃ新しい服も買えないし、好きな人に会いに行くこともできない。


そもそも相手は既婚者で子供までいる人だ。


それでも初めての恋を止めることはできなかった。


フクロダキは仕事が始まる前と終わる前に彼女の家に行き、物陰からそっと様子を伺うようになった。


彼女が家から出入りする様子を見ると安心して帰宅できるのだ。


声をかけることもなく、ただただ見つめるばかりの日々が数年続いた。


フクロダキは23歳になり、当時としてはいい年齢になっていたが、縁談の話はひとつも来なかった。


「そろそろ外に出てみたらどうだ」


ある日仕事中に雇い主からそう言われたフクロダキは戸惑った。


今までそんなこと言われたことがなかったからだ。


「俺たちももう年で、農作業は今年で最後かと思ってるんだ」


雇い主は60を過ぎていて、足腰が弱ってきていた。


農業を続けるのはそろそろ限界だと数年前から思っていたことだった。

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