オフクロサマ
それでも自分たちが仕事をやめればとうとうフクロダキはひとりになる。


仕事もなく家族もない状態で彼はどうやって行きていくのか。


そう考えて頑張ってきたのだった。


「なぁに、そんなに心配することはない。お前はなかなかの働き者だから、きっと雇ってくれるはずだ」


雇い主はそう言ったが、フクロダキはこの村から出るつもりはなかった。


ひとつはあの女性がいるから。


もうひとつは、この村の中でさえろくに人と関わった経験がなかったからだった。


唯一会話ができるのは雇い主の夫婦だけ。


そんな中で村から出て町へ行くなんて、フクロダキには考えられないことだった。


だから仕事がなくてもフクロダキはこの村に残ることになった。


そして当時の雇い主だった人からの計らいで、川魚を釣って生計を立てることができるようになったのだった。

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