オフクロサマ
☆☆☆

「その人は優しかったんだね」


フクロダキを見放すことなく、次の職業を勧めてくれた元雇い主。


フクロダキは悲惨な人生だったかもしれないけれど、ひとりでもそんな人がいてくれたことを智香は嬉しく感じた。


「うん。でも、その人も年だったからね、フクロダキが新しい仕事を初めて数年後に死んじゃったんだ」


雇い主だった男性が死んだのはそれから3年後。


フクロダキが26歳の頃だった。


村の中で一番優しくしてくれていた男性が亡くなったことで、フクロダキは葬儀の最中ずっと泣き通しだった。


普通なら同情されてもいい場面だったが、フクロダキの子供のような泣き方に村人たちは距離をおいた。


低く、獣の咆哮のような鳴き声にやはりあいつはおかしいんじゃないかと噂しはじめたのだ。


それがキッカケとなって、フクロダキは職を奪われることになった。


「川魚は自分たちでも捕ることができるから、もうお前には頼まない」


協力な助っ人を失ったフクロダキにはどうすることもできなかった。


それでもフクロダキは村から出ることなく、校舎裏の倉庫に暮らし続けた。

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