オフクロサマ
みんなそこにフクロダキがいることを知っていたが、見えないふりをし続けた。
ただひとり、あの女性を覗いては。
「大丈夫? お腹へってない?」
フクロダキが仕事を失ったと聞いた女性は毎日のようにやってきて、おにぎりを渡していった。
「ごめんね、うちの人には黙ってきているから、あまり来れなくて」
申し訳なさそうにそう言われたけれど、フクロダキにとっては十分すぎるもてなしだった。
この握り飯がなければ、フクロダキはとっくに死んでいただろう。
現に、村人たちは川魚な山菜しか食べていないはずのフクロダキが健康的な肌を持っていることを心底不思議に思っていた。
そして更に月日は流れ、フクロダキは30歳になっていた。
正式な誕生日はわからないから、この村で拾われた8月10日が彼の誕生日だった。
その日、彼女はやってきた。
いつものようにおにぎりを持って。
「ほら、これ食べて元気を出して」
ニコニコと変わらない笑顔を向ける彼女にフクロダキは妙な気分になった。
今まで彼女に感じていたのとは、別の感情だ。
好きだという気持ちはもちろんあった。
ただひとり、あの女性を覗いては。
「大丈夫? お腹へってない?」
フクロダキが仕事を失ったと聞いた女性は毎日のようにやってきて、おにぎりを渡していった。
「ごめんね、うちの人には黙ってきているから、あまり来れなくて」
申し訳なさそうにそう言われたけれど、フクロダキにとっては十分すぎるもてなしだった。
この握り飯がなければ、フクロダキはとっくに死んでいただろう。
現に、村人たちは川魚な山菜しか食べていないはずのフクロダキが健康的な肌を持っていることを心底不思議に思っていた。
そして更に月日は流れ、フクロダキは30歳になっていた。
正式な誕生日はわからないから、この村で拾われた8月10日が彼の誕生日だった。
その日、彼女はやってきた。
いつものようにおにぎりを持って。
「ほら、これ食べて元気を出して」
ニコニコと変わらない笑顔を向ける彼女にフクロダキは妙な気分になった。
今まで彼女に感じていたのとは、別の感情だ。
好きだという気持ちはもちろんあった。