オフクロサマ
☆☆☆

唯の死によってもう一度活力を取りもどした智香だったが、その目は吊り上がりジッと地面を睨みつけている。


ブツブツと口の中で「許さない許さない」と繰り返して、裕貴は空恐ろしいものを感じずにはいられなかった。


そうして再び作業を初めて1時間が経過したとき、今度は裕貴のスマホに真一からの連絡が入った。


『裕貴、唯と連絡が取れないんだ! なにか知らないか?』


焦った様子の真一に裕貴は言葉をつまらせた。


1時間前に電車事故が起こったばかりだから、まだ身元特定までは至っていないのだろう。


でも、近いうちに唯の死は真一にも伝わることになる。


「それは……。真一は今どこにいるんだ?」


『俺は今家にいるけど、どうしたんだ?』


どうしても唯が死んだことを伝えられなくて、裕貴は話題を切り替えた。


「そうか。それなら絶対に家から出ないでほしい。なにがあっても、どんなものに追いかけられてもだ」


『……唯になにかあったのか? なにか知ってるんじゃないか?』


それには答えられなかった。


ふたりの間に重たい沈黙が流れている。
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