オフクロサマ
スマホから裕貴の声が聞こえてきても答えている暇はなかった。


後を振り向くとすぐ近くまであの男が迫ってきている。


血を流しながらニヤリと粘つくような笑みを浮かべて追いかけてくる。


『もう少しで終わる! 全部終わるんだ!』


「ああああ、来るな来るな来るな!!」


大通りへと飛び出してそのまま歩道を駆け抜ける。


行き交う人々とぶつかっても立ち止まりもしなかった。


血まみれのフクロダキが両手を伸ばして今にも真一を捕まえてしまいそう
だ。


捕まったら、終わり……!


真一はなにも言わなかったが、唯もダメだったんだ。


唯も死んでしまった。


あの祭りに参加して、ちょっとした出来心で写真を撮ってしまっただけなのに!


「ああああああ!!」


フクロダキに追われる恐怖で周囲が見えていなかった。


横断歩道は赤に変わり、大きなトラックが近づいてきている。


真一はそのトラックへ向けて自ら走っていったのだ。


「危ない!」


周囲の人々の声も聞こえない。


捕まったら終わる。捕まったら終わる。捕まったら終わる……!

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