オフクロサマ
「夏休み中だもん。みんな動いてるんだよ」


大きな休みの日の駅は東京も岡山もそれほど変わらない。


旅行かばんを下げて新幹線に乗り込む人もいれば、智香たちのようにこれから岡山での目的をこなす人もいる。


自分も観光客としてここに降り立つことができたらどれだけよかっただろうかと、智香は広い階段を降りながら痛切に感じた。


夏休みを満喫している人たちの表情はみな明るくて楽しそうだ。


それに対して自分たちにはそんな楽しみはひとつも用意していない。


「まずは図書館へ行こう」


長い階段を下りきった先は駅の出口だ。


人の邪魔にならないように脇に避けた裕貴はスマホで図書館までの道のりを調べ始めた。


岡山県立図書館は日本四大庭園の後楽園付近にあり、駅から徒歩で移動するのは難しそうだ。


そう聞いた智香は一瞬だけ心が沸き立つのを感じた。


目的は図書館へ行くことだとしても、その近くには後楽園、そして後楽園の近くには岡山城もある。


少しでも周りの人達と同じような雰囲気を味わうことができるとわかって、自然と笑顔になった。
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