オフクロサマ
「この図書館、オカルト好きな人がいるんだろうな」


裕貴が小声でつぶやいて笑った。


他の棚にある題名たちは普通のフォントで書かれているのに、この棚だけオカルト文字が使われているのだ。


怖さを演出されたその棚にある本はどれも背表紙が黒っぽい。


試しに一冊手にとって開いてみると、岡山に伝わる妖怪について書かれた本だった。


例えばこんな妖怪たちだ。


スイトン。


岡山県真庭市の蒜山というエリアで有名になった妖怪。


スイトンは人の心を読むことができるので、悪いことを考えている人の元にスイ~っと現れる。


そして一本足でトンッと立ち、人間を引き裂いて食べてしまうと言われている。


だから蒜山に悪人はいないらしい。


牛鬼。


岡山県、香川県、島根県などに伝わる妖怪。


顔が牛で体がクモの姿をしている巨大な妖怪で、主に海岸に現れるとされている。


そして浜辺を歩く人を襲うらしい。


「面白い伝承があるみたい」


ついほんの世界に入り込んでしまいそうになって智香はそこで本を閉じた。


本当はもっと読んでみたかったけれど、今調べるべきことじゃない。
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