オフクロサマ
「ごめん、今日は少し体調が悪いの」


枯れた声で言ったのは唯だった。


唯はここへ来たときからずっと小刻みに震えていて、自分の両手で自分の体を抱きしめている。


そして誰かが入店するたびに怯えた表情を入り口へと向けていた。


まるでなにかがここまで追いかけてきたんじゃないかと、常に怯えているように見える。


けれど店内に入ってくるのはカップルや家族連ればかりで、唯の驚異になりそうな人物はひとりもいない。


体調が悪いと言って立ち上がった唯に習うように他の3人も無言で立ち上がった。


「本当に、みんな大丈夫?」


智香が声をかけると一瞬だけ真弓が頷き、弱々しく微笑んで見せたのだった。
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