オフクロサマ
ふたりは道の脇に避けてその様子を見守った。


タクシーはやがて遠く見えなくなってしまった。


女将さんといい、運転手といい、不穏な空気ばかりを残して行ってしまった。


裕貴は体の向きを変えて車両立入禁止の看板を見つめた。


ここを堺にしてまるで別世界へ続いているような感覚がしてくる。


本当にここを乗り越えて行っても大丈夫だろうかと、自身の理性が警笛を鳴らしている。


引き返すなら今しかない。


ここから先へ行ったら、もう戻ってくることはできない。


裕貴は拳を握り締めて奥歯を噛み締めた。


すぐに手のひらにじっとりと汗が滲んできて、自分が恐怖と戦っていることを理解した。


「行こう」


ここまで来たんだ。


引き返すことなんてできない。


この先にあるミチ村がどんな場所なのか、それだけでも確認しないといけない。


ゴクリと唾を飲み込んで裕貴は一歩を踏み出したのだった。


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