オフクロサマ
どこに待機していたんだろう。


男はまっすぐに松明に近づいていき、そして両手を掲げる。


「これより先、物音、私語を厳禁とする!」


その声は心臓にまでズシンッと響くような音だった。


男の声を聞いた瞬間キュッと喉の奥がすぼまってなんとも言えない恐怖心が湧き上がってくる。


それを裕貴に伝えようと思ったが、視線のぶつかった裕貴は左右に首を振った。


広場には100人もの人々が集まってきているのに、ひそひそ声すら聞こえてこない。


男が言ったように物音すら聞こえてこなかった。


さっきまで屋台で活発に声かけしていた男性も、今は作業の手を止めて真剣に男を見つめている。


広場に漂う空気は緊張して張り詰めて、智香の背中には冷や汗が流れていった。


汗が流れる音すら男に聞こえてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。


和服の男は周囲が完全に静かになったことを確認すると、広場の中央に設置された低いステージへと上がっていった。


ステージ中央まで来て、正座をする。


これからなにが始まるんだろう?


智香の心臓は期待と緊張と、ほんの少しの恐怖心でドキドキし始めていた。
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