オフクロサマ
この心音すらも相手に気が付かれてしまいそうで、更に緊張感がましていく。


やがて男の周りにはたくさんのお茶碗とおつわんが並べられた。


そして男がふたりがかりで子供の大きさほどもある人形を運んでくると、それを男の前に寝かせるように置く。


男はその間身じろぎもせずにジッと空間を睨みつけていた。


準備が整ったのか、再び男の周りには誰もいなくなった。


ステージ上にならべられたお茶碗とおつわん、それに不気味な人形だけでも十分に異様な光景なのに、これからどうなるんだろう?


智香はゴクリと唾を飲み込んで手を握り締めた。


「オフクロサマ!」


突然男が叫んだ。


その声もまた内蔵を揺さぶる大きな声だ。


智香と裕貴は思わずビクリと体を震わせる。


しかし村人たちはすでになれている様子で、微動だにせずにそれを見守った。


「オフクロサマ!」


男がもう一度叫んだとき、右手を人形の腹部に突き刺していた。


突然のことで思わず悲鳴を上げそうになったけれど、どうにか押し込める。


男が右手を持ち上げた時、そこには人形の腹部を模したものが握られていた。
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