恋人持ちの第五王女は隣国王子との婚約を解消したい

1 第五王女ファイローニア





「好きだよ、ニア」


「私もよ、ルディ。大好き……」



 夜、こっそりと囁くその言葉が、何よりも宝物。


 十二歳から四年間続けてきた私達の関係は、誰も知らないものなのだから。



****


 私はファニーチェク王国の第五王女、ファイローニア=フルール=ファニーチェク。
 十三人もいる王子王女の中でも終わりの方に生まれたので、王位継承権はあれども、王位が回ってくる可能性はほとんどない。
 そんなふうだから、両親も側妃のお義母様達も兄様姉様達も、私を玉のように可愛がってくれた。政治的に価値がないって素晴らしい。

 そして十六歳になった今、特に何かしらの期待も寄せられない王族の一人であった私に、一つだけ使命が課せられた。

 隣国のエンジェルスガルド王国の第6王子と結婚して、両国の円満な関係を保つ礎となることだった。


 実は、今は平和の時代、国と国が隣接している私達の大陸では、はた迷惑なことに、王族同士の婚姻を結ぶことで結束を堅くするのが流行している。ただし、王位継承権の順位が高い者同士でこれを行うと、国同士の政治的なバランスが崩れるので、私達のような、末子に近い王子王女を娶せるのが王道だった。

 まさに白羽の矢が立ってしまった私は、雷に打たれたみたいな衝撃を受けた。

 兄弟姉妹が沢山いる中、何故私なのか。家族は私を可愛がってくれているから、私を国外に出すつもりがあるとは思わなかった。
 だいたい、エンジェルスガルド王国には先月、叔母の一人が現国王の四番目の弟君に嫁いだばかりだ。これ以上王族同士で結束を固くしたら、叩きすぎた石橋が重すぎて川に落下してしまうではないか。

 私はとにかく、嫌だ嫌だとごねた。めちゃくちゃ抵抗した。何度も王宮を抜け出しては回収されたし、私みたいにお淑やかじゃない娘が嫁いだら、叔母上が固めた両国の結束にヒビが入る、硬いものほど衝撃に弱いのだ、と屁理屈をこねまくった。
 けれど、両親はニコニコ笑いながら、多分すごく気が合うと思うよ! と言うばかりで、私の意見なんか聞いてくれなかった。

 私は絶望した。
 隠れて、泣いて泣いて、泣きまくった。

 だって、両親には言えなかったけれど、私にはもう、好きな人がいるのだ……。



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