恋人持ちの第五王女は隣国王子との婚約を解消したい
5 秘密の恋の顛末
私は今、とっても浮かれている。
なんとこれから一週間、ルディが私の国に……というか王宮に滞在することになったのだ。
昨日ことの真相を知ってとても驚いたが、ルディと堂々と結婚できるのだと思うと、驚きよりも喜びが勝ってしまう。
しかも、一週間毎日ルディと会うことができるのだ。
生きててよかった、きっとこの世の春ってこういう状態のことをいうんだわ……!
「ルディ!」
早速私は、朝の散歩に誘いに、ルディのところを訪れた。
「ニア」
眩しいぐらいの笑顔に、自然と私も頬が緩む。
焦げ茶色の髪も素敵だったけれど、燃えるような赤い髪もよく似合っていて、私のルディは最高に格好良いのだ!
「ニア、その、ヴェールはしなくて良いのかい? 頭の上に避けられてるけど」
「だって、ルディの顔がよく見えないんだもの。侍女達が黙ってくれてたら大丈夫よ!」
そばに控えている侍女達に、チラリとおねだりするように首を傾げて目線を投げると、侍女達は無表情でこくりと頷いた。
私はルディの世話役として配置された侍女達に、事前に根回しをしておいたのだ。私が婚約したばかりの彼は正体は、四年間声だけで逢瀬を繰り返した後、ようやく身分を明かしたばかりの恋人なんだと打ち明けると、侍女達は猛烈に感動して、この一週間の協力を約束してくれた。
二人きりになる訳にはいかないが、これぐらいは許してくれるだろう。
「ルディは、私の顔が見られて嬉しくないの?」
「嬉しいよ。嬉しい。ただその、ちょっと刺激が強い。本当に、俺の婚約者殿は美しいから」
「ルディ……」
うっとりしながら頬を撫でてくれるルディの手に、思わず私も手を当ててそのまま頬擦りしてしまう。
「だめだニア、俺の理性を試さないでくれ。一週間の滞在予定が、第5王女に不埒を働いた罪で一日で終わってしまう」
「もう、ルディったら大袈裟よ。それより、午後は視察の予定が入っているでしょう? 午前中にデートしたいわ。どこか見てみたいところはある?」
そういって私は朝のデートに誘う。
父様達が、またすぐに離れ離れになる私達に気を遣って、一週間私がルディに付き添えるように、私のスケジュールを調整してくれたのだ。
「じゃあ、この間一緒に歩いた庭園の案内をお願いしたい」
「一度見たところで良いの?」
「ああ。正直あのときは庭園を見るどころじゃなかったから」
それもそうかと思いつつ、私はあの時の庭園デートのことを思い出す。
「もう、私ったら本当に間が抜けてるわ。あの時、相手がルディだって全く気がつかないなんて」
「仕方ないよ。君はヴェールをしていて、僕の顔なんてほとんど見えなかっただろう?」
「あなたも、私の顔が見えなかったものね」
むーんと考え込むようにした後、頭の上に被せたヴェールを突いてみる。
「このヴェール、廃止にした方がいいんじゃないかしら」
「いや、だめだ。そんな訳にはいかない。そのヴェールは大事なものだ」
「……ルディは、ヴェールの風習がそんなに好きなの?」
むしろ迷惑を被ったのでは? という疑問でいっぱいの私に、ルディは笑いながら答える。
「まあ、俺はもう廃止にしても困らないんだけどね」
「……? そうなの?」
「うん。分からないならいいんだ」
そう言って、ルディは頭にキスを落とす。
うぅ、きっと私、顔が林檎みたいに真っ赤になってしまっているわ……。
「それに、俺達の絆は、見た目で培ったものじゃないだろう?」
「それもそうだったわね」
そういうと、私は右手の薬指にはめた王家の指輪をチラリと見る。
「右手にしたんだ?」
「日中はね。まだ結婚してないもの」
「それも後少しの話だけどね」
「婚約者様がいるものね」
くすくす笑う私に、ルディも自然と笑顔になる。
「愛してるよ、ニア」
「私もよ、ルディ。愛してるわ」
私達はお互いを抱きしめながら、耳元でこっそりと愛を囁く。
これ以上ないほど幸せで、素敵な朝だった。
声だけの夜の逢瀬で四年間培ってきた私たちの関係は、もう皆が知るものとなった。
そして、お互いの言葉が何よりも宝物なのは、これまでもこれからも、きっとずっと変わらないのだ。
〜終わり〜