恋人持ちの第五王女は隣国王子との婚約を解消したい
「――ルディ、どうしよう。私、結婚させられちゃう……っ」
深夜、私は寝室の毛布の中で丸まって、空色に輝く宝石に彩られた金の指輪に話しかける。
私の目の色と同じ色に輝くその指輪は、淡い光を放ちながら、彼の声を伝えてくれた。
「……どうしたの、ニア」
「婚約することになったの。身分のある相手で、家族も乗り気なの……」
泣きながら訴える私に、ルディは少し考えるように間を開けたあと、話をした。
「ニア。言いにくいんだけど、実は俺にも結婚の話が上がってるんだ」
「……うそ」
絶望で、そこから言葉が続かなかった。止めどなく涙が溢れてくる。
「ニア、俺が好きなのは君だけだ」
「……べ、別の人と、結婚するくせに……」
「しない! 俺が結婚したいのも君だけだ。相手が相手だから、すぐに断るのは難しいとは思うが、俺は兄弟でも下の方だから、なんとしてでも断ってみせる」
ルディの気持ちが嬉しくて、だけど悲しくて、私はぼろぼろと涙をこぼしながら訴える。
「……でもね、ルディは、私とはもう結婚できないかも」
「ニア」
「私ね、実は、ファニーチェク王国の貴族の中で、結構上の方の立場にいるの。ルディはきっと、エンジェルスガルド王国の貴族なんでしょう? でもね、それでも、お父様たちがきっと、今回の婚約を蹴ってまで、なんて許してくれないわ……」
例えルディがエンジェルスガルド王国の高位貴族であっても、同国の第六王子との婚約話が上がってしまった今では、私がルディに嫁ぐことは絶望的だ。下位貴族なら、尚更だろう。
そして、ルディは、私が王女であることを知らないのだ。
「ニア、駆け落ちしよう」
「えっ」
「俺の婚約はなんとしても解消してくる。そうしたら、ニアを攫いに行くよ。ニアは、身分がなくて平民になった俺でも、ついてきてくれる?」
いつもと違って、少し震えるような声音だった。私は、心の中から花が湧いてくるような気持ちでいっぱいになる。
「行く! 行かない訳がないわ、ルディ。私、ルディがいれば、どんなことでも頑張れるの」
「ニア……絶対に、絶対に迎えに行くから」
「うん、待ってる。ルディ、愛してるわ」
「俺も愛してる。ニア、また連絡する」
そういうと、通信が途絶えた。指輪の光がゆっくりと収まる。
私は、そっと唇に手を当てる。胸の奥が暖かくなるのと同時に、自分たちの口から『愛してる』という言葉が自然と出たことに少し驚いていた。
今までの子供だった自分達からは、『好き』という言葉が出たことはあっても、こんなふうに『愛してる』と言ったことはなかった。
「ルディ」
愛しい人の名前を口にして、指輪にキスを落とす。
だめかもしれない、結局は第六王子と結婚することになるかもしれない。
それでも、今はこの気持ちに浸っていたかった。