Lies and Truth
「一体どうなってるの?」
瑞花がわたしに心配そうな目を向ける。
「わたしもまだよくわかんないけど、優陽があの日のことを色々調べてまとめてくれてるみたい」
「そっか、ならやっぱり浅桜くんに任せておくほうがいいね」
「うん、全部解決したら、瑞花にもちゃんと話すから」
「わたしのことは気にしないでね。大変なのは緋莉なんだから」
「ありがとう、瑞花」
それから二十分ほどして、優陽と本城先輩がまた教室に姿を見せた。肩を落とした本城先輩が優陽のうしろについて、わたしの席の前までとぼとぼと歩いてくる。
「ごめんなさい、緋莉ちゃん。わたし、なんか勘違いしてたみたいで……」
「え? いや、なんのことですか?」
さっきと打って変わった態度に戸惑っているのはわたしだけじゃない。隣にいる瑞花も目を尖らせて、小さく「……は?」と呟いていた。
「もう聞いてるかもしれないけど、クリスマスイブに緑地公園で殺された蜂屋すみれって女の子は、わたしと要のバイト仲間なの。それでわたし、要が緑地公園から立華さんを家まで送っていったことも知らずに、色々誤解しちゃってたみたいで。緋莉ちゃんを疑うようなことを言って、ほんとにごめんなさい」
そう言って本城先輩が頭を下げる。ほんとにさっきと同一人物? と疑いたくなるほどの変わりっぷりだ。わたしもあの日は家まで帰る間の記憶がないけれど、送ってくれたのはルカさんだ。それがなぜ蓮崎くんということになっているのだろう。
ちらりと優陽を見ると、優陽は真剣な目をしながらわたしに向かって静かに頷いた。ここは話を合わせておいたほうが良さそうだ。
「要にもあとで謝らなきゃ……。緋莉ちゃんも、ほんとうにごめんなさい」
そう言って、本城先輩はまた大きく頭を下げた。
「い、いえ、もういいですから。頭をあげてください」
本城先輩の肩に手を置き、上体をあげさせる。
「ほんとにごめんね。わたし、昔から突っ走っちゃう癖があって。あのとき周りにいた子達にも、ちゃんと説明しとくから」
本城先輩は涙目になりながら、顔の前で手を合わせた。
「優陽も、昨日言ってくれたらよかったのに……」
「持ち込み自由をいいことにクリスマス会に酒を持ってきた奴がいたなんて、周りに人がいて言えるわけないですよ。蜂屋さんには気の毒ですが、蓮崎も酔っていたし、緑地公園で緋莉と蜂屋さん両方と待ち合わせの約束をしてしまい混同したんでしょうね。だから緋莉と蓮崎、どちらのせいでもない。悪いのは人を殺した犯人だけです」
朧げながら優陽がどう説明したのかが見えてきた。きっと蓮崎くんがルカさんに関する記憶を無くしたことをうまく利用したんだ。おそらくあの日はお酒に酔っていたからだと説明して、彼の記憶に刷り込んだのだろう。確かにクラスのクリスマス会でお酒を飲んだなんて誰にも言えることじゃない。真実《ほんとう》は誰もお酒なんて持ってきていなかったと思うけれど、その証拠はどこにもない。仮に蓮崎くんが誰かに確認したとしても、誰もが知らないと答えるだろうし、それは保身のために嘘をついているだけだと思うだろう。
蓮崎くんの気持ちを考えると胸が痛むけれど、確かにこれならわたしへの疑いは解消される。
「あ、そういえばオペラ、だっけ? 踏みつけちゃってごめんね。わざとじゃなかったんだ。鞄から落ちた物に当たらないように足を引っ込めたら、バランス崩して逆に踏んじゃって……ごめんなさい。今度わたしにも作り方教えてくれる?」
申し訳なさそうに顎を引いて、伏し目がちにわたしに目をくべる本城先輩は、とても小さく、そして優しく見えた。
瑞花がわたしに心配そうな目を向ける。
「わたしもまだよくわかんないけど、優陽があの日のことを色々調べてまとめてくれてるみたい」
「そっか、ならやっぱり浅桜くんに任せておくほうがいいね」
「うん、全部解決したら、瑞花にもちゃんと話すから」
「わたしのことは気にしないでね。大変なのは緋莉なんだから」
「ありがとう、瑞花」
それから二十分ほどして、優陽と本城先輩がまた教室に姿を見せた。肩を落とした本城先輩が優陽のうしろについて、わたしの席の前までとぼとぼと歩いてくる。
「ごめんなさい、緋莉ちゃん。わたし、なんか勘違いしてたみたいで……」
「え? いや、なんのことですか?」
さっきと打って変わった態度に戸惑っているのはわたしだけじゃない。隣にいる瑞花も目を尖らせて、小さく「……は?」と呟いていた。
「もう聞いてるかもしれないけど、クリスマスイブに緑地公園で殺された蜂屋すみれって女の子は、わたしと要のバイト仲間なの。それでわたし、要が緑地公園から立華さんを家まで送っていったことも知らずに、色々誤解しちゃってたみたいで。緋莉ちゃんを疑うようなことを言って、ほんとにごめんなさい」
そう言って本城先輩が頭を下げる。ほんとにさっきと同一人物? と疑いたくなるほどの変わりっぷりだ。わたしもあの日は家まで帰る間の記憶がないけれど、送ってくれたのはルカさんだ。それがなぜ蓮崎くんということになっているのだろう。
ちらりと優陽を見ると、優陽は真剣な目をしながらわたしに向かって静かに頷いた。ここは話を合わせておいたほうが良さそうだ。
「要にもあとで謝らなきゃ……。緋莉ちゃんも、ほんとうにごめんなさい」
そう言って、本城先輩はまた大きく頭を下げた。
「い、いえ、もういいですから。頭をあげてください」
本城先輩の肩に手を置き、上体をあげさせる。
「ほんとにごめんね。わたし、昔から突っ走っちゃう癖があって。あのとき周りにいた子達にも、ちゃんと説明しとくから」
本城先輩は涙目になりながら、顔の前で手を合わせた。
「優陽も、昨日言ってくれたらよかったのに……」
「持ち込み自由をいいことにクリスマス会に酒を持ってきた奴がいたなんて、周りに人がいて言えるわけないですよ。蜂屋さんには気の毒ですが、蓮崎も酔っていたし、緑地公園で緋莉と蜂屋さん両方と待ち合わせの約束をしてしまい混同したんでしょうね。だから緋莉と蓮崎、どちらのせいでもない。悪いのは人を殺した犯人だけです」
朧げながら優陽がどう説明したのかが見えてきた。きっと蓮崎くんがルカさんに関する記憶を無くしたことをうまく利用したんだ。おそらくあの日はお酒に酔っていたからだと説明して、彼の記憶に刷り込んだのだろう。確かにクラスのクリスマス会でお酒を飲んだなんて誰にも言えることじゃない。真実《ほんとう》は誰もお酒なんて持ってきていなかったと思うけれど、その証拠はどこにもない。仮に蓮崎くんが誰かに確認したとしても、誰もが知らないと答えるだろうし、それは保身のために嘘をついているだけだと思うだろう。
蓮崎くんの気持ちを考えると胸が痛むけれど、確かにこれならわたしへの疑いは解消される。
「あ、そういえばオペラ、だっけ? 踏みつけちゃってごめんね。わざとじゃなかったんだ。鞄から落ちた物に当たらないように足を引っ込めたら、バランス崩して逆に踏んじゃって……ごめんなさい。今度わたしにも作り方教えてくれる?」
申し訳なさそうに顎を引いて、伏し目がちにわたしに目をくべる本城先輩は、とても小さく、そして優しく見えた。