Lies and Truth
記憶の引き出しを順に開いて、ルカさんとの会話を丁寧に紐解いていく。
「あと、庭のバラを見ながらなにか呟いてた。日本語じゃないみたいだったけど、そのときのルカさん、なぜか切ないような、苦しいような顔してたなあ」
「それ、なんて言ってた? 意味はわからなくていいから、発音真似てみて」
優陽の役には立ちたいけれど、英語でさえままならないわたしには無茶な要求だ。一応うーんと首を捻ってみるが、記憶力に自信は無い。
「ごめん、聞いたこともない言葉だったから、全然思い出せないや」
自嘲気味に、ははっと乾いた笑いを立てる。
「まあ結構時間経ってるし、さすがに覚えてないよな」
そう言うと、優陽はごろんと横になって目を閉じる。
「……優陽、調べ物や考え事ばかりで疲れてるよね。今夜も遅いけど大丈夫?」
閉じた瞼にかかる長い睫毛。胸の奥が暖かい気持ちでいっぱいになって、思わず優陽の髪に触れてみる。
「そうだね。緋莉の不安を今夜で全部失くしてしまいたいから、夜に備えて少し眠ってもいいかな?」
「もちろん、ゆっくり休んで」
長く夢見て、ようやく訪れた幸せな時間。
この穏やかな時の中に、いつまでも浸っていたい。
そのためにも、今夜ルカさんには全てを話してもらおう。
あの事件の真相。それにわたしの体の変化。きっとルカさんは全ての答えを持っている。
すべてが解決するかはわからないけれど、行動しないと現状はなにも変わらないのだから。
穏やかな寝息を立てる優陽の髪を撫でながら、わたしは心の片隅に潜む予感とそれに対する不安に気づかないふりをし続けていた。