Lies and Truth

 お母さんがわたし達を呼びにくる前に、優陽を部屋に残してわたしはお母さんを手伝っていた。


「背も高いし、王子様みたいな子ね」


 優陽と話してからのお母さんは、ずっと上機嫌だ。


「うん、わたしにはもったいないかな」

「そんなことないわよ。せっかく両思いになれたんだから、自信持ちなさい。でも、緋莉はほんと昔から王子様が好きよね」

「どうして? わたし、そんなこと言ったっけ?」


 今までお母さんと恋バナをしたことはない。テレビで観る俳優やアイドルを好きになったこともなかった。瑞花が好きだというダンスグループのコンサートに一度ついていった事はあるが、わたしは筋肉質でたくましく目力が強い男性が苦手だということを認識させられただけだ。コンサート自体は楽しかったけれど。


「ほら、覚えてない? 緋莉が小さい頃に舞台を観に行ったときのことよ。あなたずっと王子様役の人に目をきらきらさせて、帰り道はその話ばかりしてたわ」


 スープの入った鍋をかき混ぜながら記憶を辿ってみると、そういえば小学校三年生のときに、お母さんが東京へ舞台を観に連れて行ってくれたことを思い出した。


「あぁ、そういえば観に行ったね。なんて舞台かは忘れちゃったし、内容はあんまり覚えてないけど、セットとか衣装がすごかったのは覚えてるよ」

「フェリチレア ファト・フルモスっていう舞台よ。小さかったし、覚えてないのも無理はないわね」

「なんか最近聞いたような響きなんだけど、なんだったっけ?」


 鼻歌混じりに料理を盛り付けるお母さんは、クスッと笑って「さあ?」と答える。

 どこで聞いた言葉だろう。聞いたことあるような無いような……。あぁ、こういうのって気持ち悪い。

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