Lies and Truth
「今のもルーマニア語ですか?」
「そう、『うれしい、ありがとう』って言ったの。さっきの舞台のタイトルにもあったフェリチレアをフェリチットにするとうれしいって意味になるんだけど、クラウチンフェリチットでメリークリスマスにもなるのよ。発音はCrăciun fericitね」
お母さんの流暢な発音を聞いて、わたしの記憶の扉が開く。
「……それだ!」
会話を遮るように、つい大きな声を出してしまった。ふたりとも食事の手を止めて唖然としている。だけど今なにかが繋がったような気がして、わたしは興奮を抑えきれずそのまま続けた。
「それだよ、優陽! ルカさんが言ってた言葉!」
「あ、あぁ」
「急にどうしたのよ、緋莉」
「緋莉、今その話は……」
優陽がお母さんに目配せをする。
「あ、ごめんなさい。話の邪魔しちゃって」
でもお母さんはなにも答えない。その表情は物憂げで、それでいてどこか猜疑深いように見える。
「ルカさんか……、危ないところを助けられたり送ってもらったり、出来れば俺からもお礼を言いたいところだな」
「優陽くんも、やっぱりあの人のことを知っているのね」
「はい、緋莉から聞きました。いつか会えるといいんですけど」
お母さんは遠い目をして、小さく「そうね……」と呟いていた。