Lies and Truth
その夜、知らない景色なのにどこか懐かしい感覚がする夢を見た。
雪に覆われた森の中で、わたしは誰かと手を繋いでいる。
わたしの姿はとても小さくて、実年齢よりも十歳は若い。
繋いだ手は、その感触から男性だとわかる。けれど、見上げてみても視界はぼやけていて、その顔をはっきりと捉えることが出来ない。それでも固く繋いだ手からは守られているような力強さが伝わってきて、その人がわたしにとって信頼出来る相手なのだと思えた。
しばらく歩き続けていると、男性の体から徐々に霧のような白い靄が立ち昇り始めて、わたしは思わず声をかける。
『……ねえ、どうしたの? 大丈夫?』
不安と心配が波のように押し寄せてくる。このままじゃこの人が死んじゃう。
『緋莉、僕はもう行かなくちゃ。そろそろ朝が来るからね』
そう言われて気がついた。男性に後光が差しているように見えたのは朝日だ。
その光はどんどん強くなっていく。それと同時に男性の体もどんどん霧に包み込まれていき、わたしの視界は白一色の世界に覆われていた。
『……また、会える?』
誰かはわからない。でも、この人はわたしにとって大切な人だ。それだけはなんとなくわかる。そしてわたしは、この人を失いたくないと思っている。
堪らず涙をこぼすと、その手がわたしの頭をそっと撫でた。
『緋莉の未来には、きっと優しい陽射しが待っているよ……』
光はさらに強くなり、やがて繋いでいた手の感触が消えると、わたしは白い世界から逃れるように固く目を閉じた。