Triangle Love 7 ~ 揺れる心は夏の蝶 ~
しばらくして、ツクシくんが口を開いた。
『…ミツバちゃん。兄さんと付き合い始めたって本当?』
なぜかその声に感情は無い。
あたしはツクシくんに、ヨウと付き合っていることを言っていなかった。
恋人になったよって、言っていなかった。
軽く頷いた。
『…うん。』
『そうなんだ。去年の12月から付き合ってるんだよね?すごいね、もう半年以上は経ってる。』
『で、でもね!ツクシくんとも変わらずに遊べるよ?何も変わらないよ?』
もしかしたら、兄に対して気をつかっているかもしれないと思った。
だから、これまでとは変わらないことを強調した。
そう答えると、あたしが気にしていた点ではない部分をツクシくんから質問された。
『どうして…。言ってくれなかったの?半年間も。』
言ってくれなかった?
どうして…?
だって、言う理由がなかったから。
言う必要もなかったから。
言うとしたら、ヨウからだと思うし。
『隠してたわけじゃないよ?でもさ…。』
『…おめでとう。』
答えを最後まで待たないで、ツクシくんは食い気味に言った。
なんだ。
おめでとうが言いたかっただけか。
あたしは安堵した。
そして、笑顔で答えた。
本当に嬉しい訳ではないから、作り笑いだけど。
『うん…。あ、ありがと!ほんとねー。ヨウに告白された時は驚いちゃっ…。』
『…なんて、言うと思った?』
え…?
突然、床に押し倒された。
馬乗りのツクシくんが力強く、あたしのことを見下ろしている。
背中に床の硬さを感じた。
普段の無邪気な表情が嘘なんじゃないかと思うくらいに、顔が硬い。
無理に怒りを抑えているような…?
ツクシくんの吐息がかかる。
平静を装って、慎重に尋ねた。
『ど、どうした…の?』
『分からないの?なんでこんなことをするのか。ミツバちゃん、僕よりもお姉さんのくせに。』
『分からないよ…。だって、ツクシくんがあたしにこんなことをする理由が…。』
ツクシくんの声音は一瞬で冷たくなった。
本当に理由が分からなかった。
心当たりはない。
自惚れてもいいなら、ひとつだけ思い当たるものがあるけど。
例えば…嫉妬とか。
『本当に分からない?それなら、はっきりと言おうか?兄さんと同じ告白がいい?』
『なに…それ…。』
そんなのは、まるであたしのこと…。
あたしのことを…?
ここで確信した。
思い当たるものは正解だった。
自惚れだって思いたかった。
気づいてしまったらもう…。
戻れない。
あたしは声を荒げた。
『だって!なんで?夢にも思わない!ツクシくんみたいにステキな人が…!あたしみたいな普通な人を…。』
『どうしてそう思うの…?僕にとっては普通なんかじゃない!大好きな、大好きなかわいい女の子だよ…!』
『えっ…?』
『それに、喜ばせたいと想う相手はミツバちゃんだけだよ!ミツバちゃんだけを驚かせたくて…。』
ツクシくんは険しい表情で言った。
そんなことがあるなんて…。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
自然と涙が頬を伝う。
『…わっ…分からないよ!早く言ってくれたらあたし…。あたしは…!』
『…好きだよ。』
ツクシくんはそう呟いて…。
あたしは唇を奪われた。
背中と床のカーペットが擦れる。
お互いの唾液が口内で混ざり合う。
彼の熱情が全身に伝わって来る。
本当にあたしのことを…。
全てを理解してしまう。
あまりの濃厚さに、快楽に支配される。
幸せの絶頂。
何もかもがどうでもよくなる程の甘さ。
どうでもいい…?
ヨウのことも…?
いや。
どうでもよくなんかない…!
『んっ…。は、離れて!』
あたしはツクシくんを手で押した。
まだ馬乗りの状態だけど、顔は離れた。
『どうして…?』
『どうしてじゃない。あたしはヨウと…。』
『兄さんと僕。どっちが好きなの?』
『それは…!』
あたしは目を逸らした。
そんな目で見てもダメだよ…?
答えははっきりしている。
はっきりしているからこそ、口には出せない。
言葉にしてしまったら、呪いみたいにくっついて、完全に戻れなくなる。
そんなあたしの様子を見て、ツクシくんは続ける。
『…嬉しいよ。それなら。今、僕を拒む理由はないはずだよ…?』
『もう遅いよ…。遅いんだよ!ダメだよ!あたし…。ヨウのこと大切だから…。』
『…遅い?』
『そう!ヨウを選んだのはあたし!裏切れない…。あたしが悪いの!あたしが悪いから!だから離して…!』
『ミツバちゃんは何も悪くない!悪いのは僕だ。さっさと好きだって言わないから。言わないから…。こんなことになったんだ。』
『うっ…ううぅ…。』
涙が止まらない。
止まらないよ…。
内容がまとまらないまま、口を開いた。
『半年…付き合ってね…。ヨウはあたしのことを大切にしてくれた…!思い出もたくさんある!ヨウが大切なんだよ。だからねヨウを…。ヨウを…。』
『…うるさーい!他のヤツの、兄さんの話をするなぁ!』
『えっ…?』
ツクシくんが突然、大きな声を出した。
その声に驚いてしまった。
『ミツバちゃんだけは譲りたくない…!譲りたくないよ。他のものは何も要らない…。ミツバちゃんだけは…!』
『…ごめん。裏切れない。』
それでもあたしは、謝ることしかできない。
すると、ツクシくんはあたしの鳩尾辺りに顔を埋めてしまった。
体勢を保てなくなるほど、苦しんでいる。
『うっ…。それなら…。今すぐ振ってよ、僕のこと。嫌いって言ってよ…!』
縋るように、ツクシくんは体を震わせながら言った。
振る?
ツクシくんを?
嫌いって言うの…?
口が裂けても、嫌いなんて言えるはずがなかった。
『そんなこと…!』
『言えないよね?それならまだ僕も可能性はある。諦めないよ…?』
あたしが躊躇いを見せてしまうと、ツクシくんは顔を上げた。
それでも…。
ヨウのことは裏切れない。
『…ミツバちゃん。兄さんと付き合い始めたって本当?』
なぜかその声に感情は無い。
あたしはツクシくんに、ヨウと付き合っていることを言っていなかった。
恋人になったよって、言っていなかった。
軽く頷いた。
『…うん。』
『そうなんだ。去年の12月から付き合ってるんだよね?すごいね、もう半年以上は経ってる。』
『で、でもね!ツクシくんとも変わらずに遊べるよ?何も変わらないよ?』
もしかしたら、兄に対して気をつかっているかもしれないと思った。
だから、これまでとは変わらないことを強調した。
そう答えると、あたしが気にしていた点ではない部分をツクシくんから質問された。
『どうして…。言ってくれなかったの?半年間も。』
言ってくれなかった?
どうして…?
だって、言う理由がなかったから。
言う必要もなかったから。
言うとしたら、ヨウからだと思うし。
『隠してたわけじゃないよ?でもさ…。』
『…おめでとう。』
答えを最後まで待たないで、ツクシくんは食い気味に言った。
なんだ。
おめでとうが言いたかっただけか。
あたしは安堵した。
そして、笑顔で答えた。
本当に嬉しい訳ではないから、作り笑いだけど。
『うん…。あ、ありがと!ほんとねー。ヨウに告白された時は驚いちゃっ…。』
『…なんて、言うと思った?』
え…?
突然、床に押し倒された。
馬乗りのツクシくんが力強く、あたしのことを見下ろしている。
背中に床の硬さを感じた。
普段の無邪気な表情が嘘なんじゃないかと思うくらいに、顔が硬い。
無理に怒りを抑えているような…?
ツクシくんの吐息がかかる。
平静を装って、慎重に尋ねた。
『ど、どうした…の?』
『分からないの?なんでこんなことをするのか。ミツバちゃん、僕よりもお姉さんのくせに。』
『分からないよ…。だって、ツクシくんがあたしにこんなことをする理由が…。』
ツクシくんの声音は一瞬で冷たくなった。
本当に理由が分からなかった。
心当たりはない。
自惚れてもいいなら、ひとつだけ思い当たるものがあるけど。
例えば…嫉妬とか。
『本当に分からない?それなら、はっきりと言おうか?兄さんと同じ告白がいい?』
『なに…それ…。』
そんなのは、まるであたしのこと…。
あたしのことを…?
ここで確信した。
思い当たるものは正解だった。
自惚れだって思いたかった。
気づいてしまったらもう…。
戻れない。
あたしは声を荒げた。
『だって!なんで?夢にも思わない!ツクシくんみたいにステキな人が…!あたしみたいな普通な人を…。』
『どうしてそう思うの…?僕にとっては普通なんかじゃない!大好きな、大好きなかわいい女の子だよ…!』
『えっ…?』
『それに、喜ばせたいと想う相手はミツバちゃんだけだよ!ミツバちゃんだけを驚かせたくて…。』
ツクシくんは険しい表情で言った。
そんなことがあるなんて…。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
自然と涙が頬を伝う。
『…わっ…分からないよ!早く言ってくれたらあたし…。あたしは…!』
『…好きだよ。』
ツクシくんはそう呟いて…。
あたしは唇を奪われた。
背中と床のカーペットが擦れる。
お互いの唾液が口内で混ざり合う。
彼の熱情が全身に伝わって来る。
本当にあたしのことを…。
全てを理解してしまう。
あまりの濃厚さに、快楽に支配される。
幸せの絶頂。
何もかもがどうでもよくなる程の甘さ。
どうでもいい…?
ヨウのことも…?
いや。
どうでもよくなんかない…!
『んっ…。は、離れて!』
あたしはツクシくんを手で押した。
まだ馬乗りの状態だけど、顔は離れた。
『どうして…?』
『どうしてじゃない。あたしはヨウと…。』
『兄さんと僕。どっちが好きなの?』
『それは…!』
あたしは目を逸らした。
そんな目で見てもダメだよ…?
答えははっきりしている。
はっきりしているからこそ、口には出せない。
言葉にしてしまったら、呪いみたいにくっついて、完全に戻れなくなる。
そんなあたしの様子を見て、ツクシくんは続ける。
『…嬉しいよ。それなら。今、僕を拒む理由はないはずだよ…?』
『もう遅いよ…。遅いんだよ!ダメだよ!あたし…。ヨウのこと大切だから…。』
『…遅い?』
『そう!ヨウを選んだのはあたし!裏切れない…。あたしが悪いの!あたしが悪いから!だから離して…!』
『ミツバちゃんは何も悪くない!悪いのは僕だ。さっさと好きだって言わないから。言わないから…。こんなことになったんだ。』
『うっ…ううぅ…。』
涙が止まらない。
止まらないよ…。
内容がまとまらないまま、口を開いた。
『半年…付き合ってね…。ヨウはあたしのことを大切にしてくれた…!思い出もたくさんある!ヨウが大切なんだよ。だからねヨウを…。ヨウを…。』
『…うるさーい!他のヤツの、兄さんの話をするなぁ!』
『えっ…?』
ツクシくんが突然、大きな声を出した。
その声に驚いてしまった。
『ミツバちゃんだけは譲りたくない…!譲りたくないよ。他のものは何も要らない…。ミツバちゃんだけは…!』
『…ごめん。裏切れない。』
それでもあたしは、謝ることしかできない。
すると、ツクシくんはあたしの鳩尾辺りに顔を埋めてしまった。
体勢を保てなくなるほど、苦しんでいる。
『うっ…。それなら…。今すぐ振ってよ、僕のこと。嫌いって言ってよ…!』
縋るように、ツクシくんは体を震わせながら言った。
振る?
ツクシくんを?
嫌いって言うの…?
口が裂けても、嫌いなんて言えるはずがなかった。
『そんなこと…!』
『言えないよね?それならまだ僕も可能性はある。諦めないよ…?』
あたしが躊躇いを見せてしまうと、ツクシくんは顔を上げた。
それでも…。
ヨウのことは裏切れない。