しぃぴぃ~彼は年上のCPが好き?~

10.とうとう

戸町支店から開いてもらった、送別会の、1週間後。

加村悠輝は、2年と数ヶ月罹った病院に、最後の足跡を付けようとしていた。

ドクン、ドクンと、彼の心臓が鳴る。

「あら、おはよう。悠輝くん。」

待合室に入るとすぐに、担当の心理士が悠輝を見つけ、声を掛けてきた。

「早いのね。じゃあ、時間までまだあるけど、今日は、早めに始めましょうか。」

心理士の新橋は、クライアントを、カウンセリングルームへと案内した。

(いつもの、このやり取りが、今日でもう終わってしまう…。)

(自分で終止符を打つと決めたのに。)

悠輝は、心の中でそう思いつつも、何故か「別れ」という実感が沸いて来ていなかった。

「この1週間、どうだった?」

いつもの お決まりの台詞を、新橋は悠輝に呼び掛けた。

「……ある、決心をしました。」

悠輝は、声が震えて聞こえないように、必死で平静を装いながら、そう言った。

「決心?なあに?」

新橋は、穏やかな顔を少し緊張させて、真面目な顔で聞いた。

「このカウンセリングの最後に話します。それより、今日は、今までの思い出話をして良いですか?」

悠輝は、告白は最後に取っておくつもりで、話を逸した。

「うん、そうよね。悠輝くんが元気になって、たくさん成長してきた場所での最後のお話しだものね。」

(少し、寂しくなるけれど……。)

2人は、このように同じ事を考えて、2人の思い出の終結段階に入っていった。

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