偏想い
入学式が終わった。
とにかく校長先生の話が長くて退屈だった。
でも今からクラス発表の時だ!
私は胸の高まりを押さえつけるように制服の胸元をぎゅっと握りしめ、クラス発表の紙の前にたった。
(えっと…私の名前は…)
クラスの名簿表を左から順番に見ていく。
上から下まで見落とさないように見ていく。
(あった!!5組か…。)
私はやっと5組という文字の下に自分の名前を発見した。
ほっと息を吐き、階段で1年生の階まで登る。
そして、クラスの前まできて、少し気持ちを落ち着かせてドアを開け、足を踏み込んだ。
新しい景色だった。
真新しい制服に身を包んだ同い年の生徒たちは少し緊張したような面持ちでみんな各々の準備をしていた。
(私の席は…)
私は番号順にならんだ机からなんとか自分の机を見つけ出す。
「あ!前の子ー?」
ふと後ろから話しかけられた。
反射的に振り向くと、小柄でふわふわした髪が印象的な女の子が座っていた。
「そうだよ!後ろの子だよね?」
私は取り繕ってそう言うと、彼女はにっこりと笑った。
「これからよろしくね?私星宮 葵(ほしみや あおい)。よかったー前の子が話しやすそうな子で!」
心から安心したというような表情で胸を撫で下ろす素振りを見せる彼女はあたかも明るそうな女の子だ。
「よろしくね!私は七海 莉緒。」
「りおちゃんって呼んでいいー?」
「もちろん!私もあおいちゃんって呼んでいいー?」
私がそういうとあおいちゃんは「おっけー!」と頷いてくれた。
新学期早々友達が出来そうで安心した。
そう思いながら机に座り机上に置いてあったプリントに目を通した。
そこには新しく担任になる先生の自己紹介とクラスメイトの名前の一覧が書いてあった。
…同じ中学校の人の名前はない。
私は新しく自分を変える為に同じ中学校の人がいない県外の高校を受験した。
当時担任の先生からは「電車で1時間もかかるし県内の学校の方が良いのではないか。」と反対されることもあったが、やはりこの高校を受けたいと強く申し出たこともあり、受験を承諾してくれた。
辺りを見渡すとこの学校の周辺に住んでいるらしい子達は「同じクラスだー!」と再会を楽しんでいた。
少し複雑な心情にはなったが、これも自分を変える為。
決心の意図もこめて私は大きく深呼吸した。
ここからが私のスタート地点だ。絶対に中学生の時の私を変えてみせる。