「役立たず聖女」だからと捨てられた私を拾って溺愛し大切にしてくれたのは、大国の冷酷非情な竜帝でした~真の聖女の加護の力が失われたと気がついても手遅れですし、助けるつもりはありません~
 人を愛するのに理由などない。

 人から愛されたことがなく、人を愛したことがないわたしにはわからないはずだった。

 いままでのわたしだったら、わからないはずだった。

 だけど、いまは違う。

 人を愛してそれがかなわなかったり、裏切られるのが怖かった。だから、逃げていた。

 でも、いまは……。

「フランコ様、わたしもそう思います。人を愛することに理由などありません」

 舞踏会のときのように、彼が手を差し出してきたのでそれを取った。

 すると、彼に抱き寄せられてギュッと抱きしめられた。

 あたたかすぎるその抱擁に、なぜか涙が出てきた。

 どうしてかはわからない。
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