「役立たず聖女」だからと捨てられた私を拾って溺愛し大切にしてくれたのは、大国の冷酷非情な竜帝でした~真の聖女の加護の力が失われたと気がついても手遅れですし、助けるつもりはありません~
 エルマは、ほんとうにかわっている。もちろん、それはいい意味でだけど。

 ガンドルフィ公爵家には、歩いて来たらしい。わたしといっしょに皇族専用の馬車に乗って皇宮に行くつもりだったので、馬車は必要ないと思ったらしい。

「厚かましくってごめんなさいね。まぁあなたに断られたとしても、歩いて屋敷に帰るか、皇宮に歩いて行くつもりだったの」

 四頭立ての立派な馬車の中で、彼女はそう言ってペロリと舌をだした。

「馬車って好きじゃないのよね。荷馬車ならともかく、こういう馬車って大げさでしょう?いかにもって感じがするのよ。わたしったら、乗せてもらっていながらなにをエラそうなことを言っているのかしらね。いつもお兄様に怒られるの」
「いいのよ。わかるような気がするわ」

 移動するのに馬車は必要である。みんながみんな乗馬が出来るわけではないのだから。だけど、大げさな馬車はどうかしら、と思う。

 とはいえ、それが特権階級の象徴だから仕方がないのかもしれない、とも思う。

「そうそう。馬に会うとすぐに忘れちゃうからいまのうちに言っておくわね。デボラが最後に言っていた、彼女の誕生日パーティーなんだけど……」

 向かい合わせの座席で、彼女はこちらに身を乗りだしてきた。
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