世界で一番いい女



 じわっと、羽生の瞳がうるみだす。


「またあの子のところに行っちゃったのかって……別れちゃうかもって不安だった」

「ありえねーから安心しろ」

「うん……ありがとう」


 俺の腕の中でしくしくと泣く羽生。


 癖のある長い髪は触り心地がいい。


 俺と付き合い始めてから切ってないの、ずっと隣で見てるから知ってる。


 昔の女がよく言ってた。


 女の子は誰かを好きになると髪を伸ばしがちだし、失恋すると髪を切るんだって。


 ってことは、この伸びた分だけずっと俺のことが好きで……そんなの愛おし過ぎるっつーの。


 あんまり可愛いことされると、家に帰したくなくなるから勘弁(かんべん)してほしい。


 そんなこと、口には出さねーけど。


「ところで」

「へ……?」

「今日一緒に歩いてた男、誰?」


 羽生を抱き締める腕に力が入るけど、気にしない。


 俺だって不安になったんだし、少しくらい苦しめばいい。


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