無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 私のお勧めだったソーセージと、ほかに気になった燻製メニューを適当にオーダーし、ハイボールで乾杯をする。

 志賀さんをここまで引っ張ってきたはいいけれど、なにを話せばいいか急にわからなくなった。
 とりあえず仕事の話でもしてお茶を濁そうか。そこから自然と違う話題になるかもしれないし……。
 とにかく、彼を元気づけるために明るく楽しくを心がけよう。

「燻製って普段食べる機会が少ないから斬新だ」

「ですよね。気に入りました? 燻製の鶏肉を使ったサラダもありますよ?」

「女の子はサラダが好きだよな」

 よかった、硬い仕事の話題よりも食べ物の話のほうが楽しいし、笑顔になれそうだ。
 気を紛らわせるには、こういうどうでもいい話が実は一番向いている。

「サラダといえば! 私はポテトサラダが好きなんですけど、うちの母が作るやつはスライスの玉ねぎ入りなんですよ。私は子どものころから入れないでってずっと言ってたのに、母は毎回入れるんです」

「玉ねぎ、嫌い?」

「そうじゃないんですけど、ポテサラにはちょっと……。志賀さんはどっち派ですか? 好みが別れますよね」

 火が付いたように一気に喋りすぎただろうか。志賀さんが私に圧倒されて若干引いている感じがする。

「俺はどっちもうまいと思う。ていうか……全然聞いてこないんだな」

「え?」

「俺の様子がおかしかったから飲みに誘ったんだろ? でもなにがあったのか聞かずにいる」

 穏やかな表情で頬杖をつきつつ、まるで観察するように視線を送ってくる志賀さんに対し、私は心の中を読まれた気がしておどおどしてしまう。

「志賀さんは私の憧れなので、今もけっこう余裕がないんですよ。話を盛り上げなきゃって必死です」

「へぇ、俺に憧れてるんだ」

「いじめないでください」

 私が間髪入れずに言葉を返せば、彼は「いじめてないだろ」と声に出して笑った。

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