無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 本当は、志賀さんが落ち込んでいる原因については知りたい。
 仕事でなにかあったわけではなさそうだから、実は彼には思いを寄せる女性がいて、その人とうまくいかなかったとか?
 当たらずとも遠からずで、その線が一番濃厚ではないかと私は邪推してしまった。

「神野さんは学生時代に部活はやってた?」

「友達に誘われて演劇部に入ってました。裏方でしたけど」

「俺は小学生のころから剣道をやってて、中学も高校も剣道部だった」

 全然知らなかった。志賀さんについて新しい情報が聞けたことがうれしくてたまらない。それだけでも今日ここへ誘った甲斐があった。
 小学生の志賀さんはかわいかっただろうなぁ。
 いや、剣士だから凛々しかったのかな? と、想像を膨らませて顔が緩む。

「高校の部活の顧問は体育教師だったんだけど、おっかなくてさ。人として正しい行動を常に意識して生きろっていうのがモットー。剣道以外でも、道義にもとることは許さない、みたいな人だったんだよ」

「厳格な父親みたいな方ですね」

「体もデカくてバキバキに鍛えてるから、高校生の俺にとっては絶対に逆らえない存在だった」

 “ザ・体育会系”みたいな先生を勝手に頭の中で思い描いてみる。
 髪型は角刈りに近い感じで、肌の色は浅黒いのかな?……なんて。
 そういえば私の高校にも、そういう体育の先生がいた気がして懐かしい気持ちになった。

「この前、同じ剣道部だったやつから連絡が来たんだけど、その先生……今入院してるんだ」

「……え?」

「教え子たちに会いたがってるから一緒に見舞おうって誘われて、昨日病院に行ってきた。そしたら……」

 そこまで言うと、志賀さんが辛そうに眉根を寄せた。

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