無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「ウーロン茶を頼もう」

「え?」

「俺に合わせて飲んでただけで、ハイボール、本当は好きじゃないんだろ?」

 無理していたのがバレてしまい、私は恥ずかしくて手元にあったおしぼりをキュッとつかんだ。
 飲みに行きましょうと私から誘っておきながら、真似をして注文したハイボールの中身はほとんど減っていない。
 話を聞きながらちびちびとしか口を付けていなかったのを見て、志賀さんは自然と気付いてくれたのだろう。
 それだけではなく、私がお酒に弱いのも同時に見抜き、ウーロン茶にしようと言ったのだ。私にはもうアルコールは飲ませないつもりらしい。

「そしたら、ラーメン食べに行きます? 飲んだあとは“シメのラーメン”って言うじゃないですか!」

「アハハ。たいして飲めない子が受け売りを力説すると面白いな」

 生意気だぞ、とでも言いたげな返事に、私も思わずニヤニヤと口元が緩んだ。
 私は志賀さんが笑ってくれるのならなんでもいい。

 席を立ち、お会計を済ませようとする私を押しのけて、志賀さんがスマートにクレジットカードで支払ってしまう。
 申し訳なくて、私が何度も「ありがとうございます」と頭を下げれば、志賀さんはおかしそうに肩を揺らして笑っていた。

 お店を出て空を見上げると、ぽっかりと大きな月浮かんでいた。
 とても幻想的で吸い込まれそうな満月だ。
 外は熱帯夜で気温が下がらないままだけれど、私は志賀さんとふたりで過ごせたことがうれしくて、今夜はできるだけ長く一緒にいたいと欲が出る。

「ラーメン、男性はやっぱりガッツリ系が好みなんですか? ニンニクや背脂がドカッと乗ってる感じとか。あ、担々麺みたいな辛いのが好きな人もいますよね。ちなみに私は塩ラーメンがいいです!」

 あてもなく駅のほうへ向かって歩き出した志賀さんの隣に並んだ私は、頭に思い浮かんだままを懸命に話した。

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