無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「神野さんって、仕事以外ではすごく饒舌なんだな」

 それは完全に誤解です。
 私は今、がんばってしゃべっています……だなんて言えない。
 志賀さんを楽しませたい気持ちと、会話が途切れたときの静寂が怖いという気持ちが交互にやってきて、私を急き立てているだけだ。
 
「あんまりペラペラしゃべるとうるさいですよね。すみません」

「それはいいんだけど、ほんとにラーメン食べたいと思ってる? また俺に合わせようとしてるだろ」

 見事に図星を指されてゴクリと唾を飲み込むと、自然と歩みが止まってしまい、歩道に立ち尽くした。
 先ほどの燻製バルであれこれ食べたのもあるし、今夜は初めから緊張で胸がいっぱいで、たいしてお腹はすいていない。
 男性である志賀さんは食べ足りなかったかもと気を回してラーメンを提案してみたのだが、その考えを丸ごと読まれたようだ。

「志賀さんを元気付けたかったんです。こんな私でも、少しでも慰めることができればと……」

「慰め……ね」

 まだ帰りたくない、もっとたくさん語り合いたい、というのが本音だ。それを正直に言えない自分が情けない。
 なのに落ち込んでいる志賀さんのせいにしてしまったみたいで、じくじたる思いが胸を締めつけた。
 志賀さんが相手だと私はすぐに臆病風に吹かれる。今日が勝負の日だと意気込んでいたときの度胸はどこに行ってしまったのだろうか。

「男に対して“慰める”って言葉は、違う意味に取られかねないから気を付けたほうがいい」

「……え?」

「わからない? そっちの意味だよ。そんなに無警戒だとつけ込む男もいるから危ない」

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