無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 女が男を慰める。
 なるほど、そうなるのかと冷静に分析をしている場合ではないだろう。
 どうやら不用意に使う言葉ではないらしい。やさしい志賀さんは私にそれを教えてくれたのだ。
 私なんかをホテルに連れ込む男性などいないから、心配無用なのに。

「誘ってるって誤解されるから、注意しろってことですよね?」

「そう」

「もし本気で私が誘ったら、志賀さんはどうしますか?」

 決行するはずだった計画は中止しようと、飲みに誘った時点で決めたはずなのに。
 なぜか話がこういう展開になり、あきらめたはずの思いがむくむくと復活してきて迷いが生じた。

 私は今夜、志賀さんに抱いてほしいとお願いするつもりだった。
 愛がなくてもいい、私を嫌っていないなら一度だけ抱いてください、と。

 とんでもない頼みごとなのは、自分でも承知している。
 私たちはただの同僚という間柄で、それ以上の関係ではないのだから。
 
 けれど、もしもこの願いが叶ったなら、私は志賀さんへの気持ちを昇華できると思ったのだ。
 二年に及ぶ片思いに私なりのケリをつけられる。

 おそるおそる視線を上げれば、怪訝な面持ちの志賀さんと目が合った。

「俺を慰めてくれるって? ホテルに行ってなにをするかわかってる?」

「はい。もちろん」

「…………」

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