無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 私が志賀さんと付き合えるなんて、夢のまた夢だ。それはありえないので、少しの期待もしていない。
 だからこそ、一晩だけでいいから思い出がほしかった。

 一般論だが、男性は相手の女性に対して愛がなくても抱けるらしい。
 その情報が本当ならば私の願いだって叶うかもしれないと、一縷の望みを託していた。

 自分勝手な考えをめぐらせる中、気が付けば志賀さんが困った顔をしたまま無言で固まっていた。
 そんな彼を見て、私はあわてて我に返る。

「す、すみません。ちょっと聞いてみただけです」

 抱いてください、と本来の願いを口にはできなかった。
 彼の表情が、答えはノーだと物語っていた。だから私は自主的に引き返した。

 エヘヘと苦笑いの笑みをたたえ、視線を逸らせて恥ずかしさを紛らわせる。
 大好きな人を困らせてしまったことに対し、途端に罪悪感が湧いてきた。

「神野さんは職場の大切な仲間だ。酔った勢いとかその場のノリで、ホテルには行けない」

「……ですよね」

 大切な仲間。
 志賀さんの中で、私はそういう位置にいる。それで充分ではないか。
 抱いてほしいだなんて高望みすぎたのだ。
 今夜ふたりきりで飲めたのだって、私の中では素敵な思い出として残る。だから欲張るのはやめにしよう。

「今日、ほんとにどうした? 神野さんらしくない」

「志賀さんをビックリさせようとしただけですよ!」

「……だから、それがらしくないんだけど」

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