無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「今夜の私は変でしたよね? 見た目もいつもと違うし、なんだか挙動不審だったでしょ。恥ずかしいので、まるっと全部忘れてくれませんか?」
「……ふたりで飲みに行った記憶すべてを、俺の頭の中から消せと?」
「はい。お願いします」
燻製バルでの会話の内容や、素敵な志賀さんの表情ひとつひとつは、私がきちんと覚えていればいい。
強引に飲みに連れ出し、大それた頼みごとをしようとして失敗した私のことは、彼には今日限り忘れてほしい。
「そ、それと……」
おやすみなさいと声をかけて、さっさとアパートの階段を上って部屋に入ればよかったのに、神秘的な満月が私をさらに狂わせる。
「今からしてはいけないことをしますが、これも絶対に忘れてくださいね」
「……は?」
「一瞬だけ我慢してください。本当にすみません。先に謝ります」
早口で必死に言葉を紡ぐ私は、いったいどんな表情をしているのだろうか。
きっと悲壮感でいっぱいに違いない。だけどそれを気にする余裕は一切なかった。
私は志賀さんの肩に自分の両手を置き、精一杯背伸びをして顔を近づける。
驚いて少し前かがみになった彼の左頬に、かすかに触れるだけのキスをした。
全部忘れてもらえる約束を取りつけたとはいえ、ずいぶんと大胆な行動をしたと思う。自分から男性にキスをしたのは初めてだ。
私の中で最高の思い出としていつまでも心に残るはず。
「……ふたりで飲みに行った記憶すべてを、俺の頭の中から消せと?」
「はい。お願いします」
燻製バルでの会話の内容や、素敵な志賀さんの表情ひとつひとつは、私がきちんと覚えていればいい。
強引に飲みに連れ出し、大それた頼みごとをしようとして失敗した私のことは、彼には今日限り忘れてほしい。
「そ、それと……」
おやすみなさいと声をかけて、さっさとアパートの階段を上って部屋に入ればよかったのに、神秘的な満月が私をさらに狂わせる。
「今からしてはいけないことをしますが、これも絶対に忘れてくださいね」
「……は?」
「一瞬だけ我慢してください。本当にすみません。先に謝ります」
早口で必死に言葉を紡ぐ私は、いったいどんな表情をしているのだろうか。
きっと悲壮感でいっぱいに違いない。だけどそれを気にする余裕は一切なかった。
私は志賀さんの肩に自分の両手を置き、精一杯背伸びをして顔を近づける。
驚いて少し前かがみになった彼の左頬に、かすかに触れるだけのキスをした。
全部忘れてもらえる約束を取りつけたとはいえ、ずいぶんと大胆な行動をしたと思う。自分から男性にキスをしたのは初めてだ。
私の中で最高の思い出としていつまでも心に残るはず。