無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「ご、ごめんなさい!」

 されるがままに呆然としている志賀さんと目が合い、私は肩から手を離して後ずさりをした。
 突然頬にキスをされた彼はさぞかし背筋が凍っただろう。気持ち悪い、怖い、と。

「今のはなに?」

「えっと……あの……」

 悪事が見つかった子どものように目を泳がせる私に対し、志賀さんは無表情で尋ねてくる。
 だけどキスの理由を聞かれても困る。根底にあるのは志賀さんへの恋心だからだ。でもそれを正直に言う勇気はない。
 
 私が後ずさった分だけふたりの間に距離ができていたのに、彼がそれを詰めて再び私の正面に立った。

「キスは、こうするもんだろ」

 志賀さんの右手が私の後頭部を支えるのとほぼ同時に、私は唇を奪われていた。
 しっとりとした彼の唇は熱く、食むように動きながら舌で何度も唇の合わせをなぞられる。
 私は緊張で全身が固まってしまい、なにも応えられずにいると、ゆっくりと彼の唇が離れていった。

 ほんの数秒の出来事だったはずなのに、私にはとても長い時間に感じられ、息をするのも忘れていたので窒息しそうだ。
 
「おやすみ」

 私の頭をポンポンとして去っていく志賀さんの背中を見送る。

 心臓のドキドキも、顔の紅潮も、今さら遅れてやってくる。
 ホッとして大きく呼吸を繰り返した私は、力が抜けてその場にへたり込みそうになった。

< 20 / 81 >

この作品をシェア

pagetop