無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
§2.幼馴染の言葉
***

 翌日の土曜、私は家から一歩も出なかった。
 ダラダラと過ごすのはよくないとわかりつつも、体が重くて、なにをするにもやる気が起こらなかったのだ。
 そのくせ頭では同じことをぐるぐるとエンドレスで考えていて、脳は疲れている。

 私を悩ませているのはもちろん志賀さんだ。
 別れ際にされたのは、間違いなくキスだった。都合のいい夢や妄想なんかではない。

 志賀さんがなぜあんなことをしたのか、それがさっぱりわからない。
 先に私が彼の頬にキスをしたから? だからといって、やり返すというのもおかしな話だ。

 モヤモヤとしたまま月曜の朝を迎える。
 今日志賀さんと顔を合わせると思うと、昨夜はベッドに入ってもほとんど眠れなかった。

 睡眠はあきらめて早朝から出勤準備を始める。
 洗面台で鏡を見ると、生気(せいき)がまったくない自分の顔が映っていて、頬をパンパンッと叩いて気合を入れた。

 当初の計画通りに勇気を振り絞り、抱いてくださいとお願いして受け入れてもらえたとしても、再び彼と顔を合わせる日は確実にやってくる。
 当然それはわかっていたので、私は今日から元の自分に戻ると最初から決めていた。
 なにもなかったみたいに、職場では黙々と仕事をするのみだ。

 いつもの通勤服に着替え、いつものように髪を後ろにひとつに結ぶ。
 しているかどうかわからないくらいの薄いメイクを施せば、元の地味な私の出来上がりだ。

 出勤して、すでに志賀さんがオフィスにいたらどうしよう。
 電車を降りて改札を出たところでそれに気付いて歩みを止めた。
 こんなに早い時間には誰も出勤しないので、たぶん大丈夫だとは思うけれど、可能性はゼロではない。
 ほかの人が出勤してくるまで志賀さんとふたりきりとか、考えただけで胃に穴が開きそうだ。

 はぁ、と溜め息を吐きだして、私は会社とは違う方向へ歩き出す。
 向かった先は私がよく利用しているハワイアンカフェだ。ありがたいことに、そこは朝早くから営業している。

 店内はハワイの常夏気分を感じさせてくれる明るい雰囲気で、センスのいいラタンチェアが置いてあり、インテリアがとてもオシャレで落ち着く。
 普段はランチか、仕事が終わったあとに夕飯を食べに行くことが多い。
 コーヒーはもちろん、パンケーキやロコモコなどフードも充実していて味もおいしいのだ。

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