無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 私の心配事はただひとつ。
 すべて忘れるという約束を、志賀さんが守ってくれるかどうか。
 今日はそれが気になって、私は一日中びくびくして神経をすり減らすだろう。

「なんかよくわかんないけど、がんばって。骨は俺が拾ってやるからさ」

 その言い方だと、死ぬのが確定しているのだけれど……まぁいいか。
 エールをもらえただけでありがたい。

 オフィスに着いたときにはほかのスタッフも出勤済みで、「おはようございます」と普段通りの短いあいさつを交わした。
 やはり時間を潰したのは正解だった。
 自分のデスクに就き、静かにパソコンの電源を入れて準備を進める。

 できるだけ息をひそめ、いつも以上に自分の気配を消した。
 いるかいないかわからないくらいの存在感のまま、黙々と仕事をこなす。今日はそれだけに集中すると決めている。

 けれど、どうしても気になってしまい、上半身だけでそっと背伸びをして彼のデスクをうかがい見た。
 いつもと変わらない志賀さんの横顔を目にして安堵する自分がいる。理由なく欠勤などするはずがないのに。

 輪郭がシャープで、どの角度もカッコいいなと見惚れていると、彼の視線がなにげなくこちらに向けられ、私はあわてて頭を伏せてパソコンモニターの陰に隠れた。
 私のバカ。ときめいてどうする。危うく目が合うところだったではないか。

「知鶴ちゃん、おはよう。……あれ?」

 佐夜子さんが出勤してきて私に声をかけてくれたのだけれど、じろじろと私に視線を向けて首をひねった。

「髪、今日は結んでるんだね。メイクも……前の知鶴ちゃんに戻っちゃった」

「はい。あれは……やめました」

「どうして? 似合ってたのに!」

< 24 / 81 >

この作品をシェア

pagetop