無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 私は周りをキョロキョロと見回しながら、唇の前に人差し指を立てるジェスチャーをした。
 佐夜子さんの声がいつもより大きいのは気のせいだろうか。

「ん? もしかしてフラれちゃった?」

「佐夜子さん……それ、思いきり地雷です」

「ごめん。でも、相手が相手だからなぁ。知鶴ちゃんがチャラ男と付き合うとか想像がつかないよ。やめて正解じゃない?」

 佐夜子さんをじっと見つめて首をかしげると、彼女は大きな瞳でパチパチと二度まばたきをしてほほえんだ。
 
「おっしゃっている意味がわからないです。チャラ男って誰ですか?」

 佐夜子さんはなにか勘違いをしている。
 私が誰を好きなのか知らないはずだし、気持ちが態度に出ていてバレたのだとしても、志賀さんは全然チャラ男ではない。

「え、あの男の子でしょ? ほら、ハワイアンカフェにいるイケメンくん」

「……彼は私の好きな人ではないですよ」

 なるほど、聖くんのことだったのかとすぐさま理解した。
 佐夜子さんは私と一緒に何度かあのカフェにランチを食べに行ったから、聖くんを見知っているとはいえ、どうしてそういう思考に陥っているのか不思議でならない。

「知鶴ちゃんと仲良さそうに話していたからさ、てっきりあの子かと思ったの」

「私はただの常連客ですから」

 つい先ほどもおいしいコーヒーを飲んできたところだ。今朝行ったのはイレギュラーだったけれど。

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