無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「その鏡、曇ってるんじゃない? それか、知鶴ちゃんは目が悪いとか?」

「曇っていませんし、視力には自信があります。目元がパッチリとしてる佐夜子さんの美しいお顔だって、近づかなくてもはっきり見えてますよ?」

「もう~! そういうとこ、かわいい!!」

 佐夜子さんがうれしそうに悶絶しているけれど、私には今の会話のなにがかわいいのか、さっぱりわからない。
 彼女は今年四十歳だとは絶対に思えないほど若いし美人だから、正直に言っただけなのに。

「まつ毛、気付いてくれた? 昨日マツエクのメンテをしたの」

「ああ、なるほど。とても素敵です!」

「今度知鶴ちゃんも一緒に行く?」

 私とは無縁の世界なので、そのお誘いには苦笑いしながらフルフルと首を横に振った。
 
「佐夜子さんみたいな美人になれるならいくらでもやりますけど……」

 尻すぼみにそこまで言って口ごもる。
「たいした変化は見込めないですから」と続けようとしたものの、違う考えが脳裏をかすめたからだ。

「でも……今までまったくやったことがないですし、人生で一度くらい経験しておくのもありですよね」

「そうよ、なんでもやってみればいいの。なにが気に入るかわからないもの。食わず嫌いはよくない! とりあえず私が通ってるマツエクのサロン情報をメールで送っとくね」

 私の気が変わったことに驚きながらも、佐夜子さんはにっこりと笑ってスマホをイジり始めた。

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