無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 その翌日、この日も何気ない平穏な日常を送るはずだった。
 
四方(よも)さんが来てるわ。相変わらず綺麗よね」

 佐夜子さんが隣のデスクからそっと顔を寄せてささやくように話しかけてくる。

 四方 クレアさんはアパレルブランドを展開している会社の若き女性経営者なのだけれど、ハーフで目鼻立ちがはっきりとしたかなりの美人だ。
 自社のセンスのいい服を身につけていて、スタイルも抜群だから、まるで雑誌から抜け出たモデルのよう。
 どこにいても目立つ彼女は私とは正反対で、“人類”というくらいしか共通点はないと思う。

「彼女、志賀くんに気があるんじゃない? なんだかあやしい」

 佐夜子さんが人差し指の第二関節をあごに当てて訝しむ仕草をした。
 うちの事務所は監査業務のほかにコンサルタント業務も請け負っているのだが、四方さんの会社は志賀さんの担当だ。
 美男美女でふたりがお似合いなのは以前から私も気付いていた。

「もしかして、すでに付き合ってるとか? 知鶴ちゃんはどう思う?」

「さぁ……どうでしょう」

 佐夜子さんに触発されて様子をうかがえば、ふたりともいつもに増して笑顔で話していて、それを目にした途端、瞬間的に胸にチクリと痛みが走った。

 ……はぁ、まだダメだ。
 私は全然前に進めていない。そんな自分が本当に嫌になる。
 志賀さんには四方さんみたいな美人が恋人として合うに決まっているのに、考えただけで胃まで痛くなってきた。

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