無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「知鶴さん、今日もお疲れ様」

 相変わらず爽やかなイケメンだ。
 こんな人がスタッフとしてお店にいたら女性客も増えるはずだと、口には出さないが心の中で思ってしまう。

「お友達と話してたよね。ごめんね。私のおしぼりとか、後回しでもよかったのに……」

「謝らないでよ。アイツらはもう帰るとこだったし、しょっちゅう会ってるからいいんだ。知鶴さんのほうが断然大事だよ」

 聖くんはたまに、こちらが恥ずかしくなるような言葉をサラリと言ってのけるから困る。
 だけど勘違いなどしない。友達より私が大事というのは、今はバイト中だからという意味だ。
 友達が来店したからといって、あまり私語ばかりしていたら店長に叱られるだろう。

「注文、決まった?」

「ロコモコのセットにする。食後にアイスコーヒーをお願いします」

「かしこまりました」

 聖くんが綺麗な顔でニコリと笑い、キッチンのほうへ消えていく。
 しばらく待つと、サラダが添えられたロコモコのプレートとスープの入った器ををトレーに乗せて持ってきてくれた。

「ロコモコセットです」

「ありがとう。……おいしそう」

「知鶴さん、またなにかあった?」

 カトラリーが入った籠からナイフとフォークを取り出していると、聖くんが静かに問いかけてきた。
 彼は適当そうに見えて、実は人の表情の変化にはよく気付くタイプだし、なにげない気遣いができる人だ。女性にモテるのもうなずける。

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