無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「目元の印象が変われば私も少しはかわいくなれますかね? 男性ウケが……よくなったり、とか」

 スマホを操作していた佐夜子さんの指の動きが、私の発言を聞いてピタリと止まる。

「知鶴ちゃん、もしかして好きな人ができた?」

「えーっと……あの……」

「そうなんだ! 知鶴ちゃんだってお年頃だもんね。人によるかもだけど、マツエクも派手過ぎなければ男ウケはいいはず!」

 はっきりと返事をしていないのに、佐夜子さんは私が恋をしていると確信したようだ。
 言い当てられたことでなんだか恥ずかしくなってきて、私は顔を赤くしてもじもじしてしまう。

「メイクもね、知鶴ちゃんは元々かわいいし、肌が綺麗だからファンデは薄くていいのよ。ゴテゴテ塗ると逆に変。今のままでまつ毛だけ足せば印象はけっこう変わるわ」

「あ、ちょっと待ってください。メモを取りますね」

 ファンデは厚塗り厳禁、マツエクで目力アップ、などとメモ帳に素早く書きこんでいたら、またアハハと笑われた。
 私としては真剣に聞き入っていたつもりだが、おかしな行動だっただろうか。

「で、その好きな人に告白するの?」

 興味津々だとばかりに、ニヤリとした視線が飛んできた。
 私は割となにを聞かれても平気なほうだけれど、この件だけは誰にも話していないし、深掘りされたくない。たとえ尊敬している佐夜子さんにも。

「告白って、私と付き合ってください……みたいなやつですよね? それは考えてないです」

「どうして?」

「片思いとして幸せな記憶を残すだけで充分です」

 にこりと笑みをたたえたところで、ほかのスタッフがタイミングよく続々と出勤してきて会話が終了した。

 告白を考えていないのは本当だけれど、口にはできないようなもっと大それたことを実は考えている。
 その準備段階としてマツエクもいいなと興味が湧いたのだ。

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