無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「俺、話を止めたよね? さっき知鶴さんに告白したばっかりなのに……」

「……ごめん」

「はぁ……しょうがないな。友達として続きを聞くよ。で、その人とはどういう状態?」

 さっきの告白めいた言葉は冗談かなにかだと思って聞き流していた。彼を傷つけてしまったかもしれない。
 だけど、本気で私に好意を抱いているのだろうか。それはにわかに信じがたいのだけれど。
 それはさておき、私を友達だと言ってくれたのがとてもうれしかった。

 止めていた歩みを進めながら、聖くんに促されて、私が志賀さんに片思いをして二年以上が経つことを話した。
 そして、あの日の出来事も順を追ってたどたどしくだけれど説明をした。

「一旦ストップ!! 知鶴さんが勇気を出して飲みに誘ったまではわかる。でも、そのあとがわからん。なんて言った?」

「だ、だから……一度でいいから抱いてくださいってお願いする計画だったの。結果的にははっきり誘えずに失敗したけど」

「なんでそうなるかなぁ。そこは告白して、付き合ってくださいって言う流れだろ?」

 彼が理解できないとばかりに首を傾げた。やはり私の考えが突飛すぎたのだろう。
 志賀さんにもさぞかし不気味な女だと思われたはずだと、聖くんの反応を見て確信してしまった。

「付き合ってほしいだなんて、恐れ多くて口にできない」

「どうして?」

「絶対ダメに決まってるもん。それなら、一夜でいいから夢みたいな幸せな時間を過ごしたかった」

 最初から望みはないと承知している。だったら、悪あがきなどせずに静かに自分の思いに蓋をしてあきらめればよかったのだ。
 だけど一夜だけでも夢を見たかった。それを思い出としてこの先の人生を生きるために。
 がんばって志賀さんをあきらめられたとしても、私が誰かを好きになることはおそらく二度とないだろう。

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