無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「付き合えなくてもいいから抱いて欲しいって……ヤリ逃げしてくださいって言ってるようなもんだよ?」

「私は志賀さんを好きだから、それでもよかったの。次の日に綺麗さっぱり忘れられてるほうが、同じ職場だから仕事にも差し支えないでしょ。でも……忘れてくれてないみたいでさぁ」

「まぁ、そりゃそうだ。泥酔してない限り、知鶴さんがなんて言ったか覚えてるはず」

 あの日はたしかにふたりともお酒は飲んだけれど、たいした量ではなかった。
 志賀さんにハイボールのおかわりをもっと勧めればよかったのだろうか。いや、それも違うと思う。

「とにかく一か八かでもう一回正面から当たってみれば? 身体を差し出すんじゃなくて気持ちを伝えるって意味でね。もし砕けたら俺が慰めるよ」

「ほんと?」

「もちろん」

 当たって砕けたら、聖くんに話を聞いてもらって、そのあとは山梨に戻って太一のお店で働かせてもらおうかな。
 太一が嫁になってもいいと言ったのは冗談だろうから。万が一冗談でなければ断るまでだ。
 隣を歩く聖くんが、ニコニコと明るい笑みをたたえながら私の顔を覗き込んでくる。
 こんなイケメンに友達になってもらえた私は幸せ者だ。聖くんファンの女の子たちが知ったら嫉妬されるだろう。

「告白してちゃんと振られようかな。付き合えないのなら、キスしたことも含めて全部忘れてくださいってもう一度お願いして……」

「は?! キスしたの?」

 聖くんが私の肩に手を添えて歩みを止めた。
 一気に全部話したつもりでいたけれど、説明の途中で彼からストップがかかったから、最後にキスされたところまで話せていなかったと気付く。

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