無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「アパートの前まで送ってもらったときにね。でも、私が先に頬にキスしたからだと思う。それが下手くそすぎて指導された……みたいな?」

「意味がわからん」

 フルフルと首を横に振る聖くんを横目に、再びふたりで歩き出す。アパートはもうすぐそこだ。

「それって脈ありなのか、もう一回チャンスが来たら次はヤリ逃げしようとセコいことを企んだか……」

「志賀さんはセコくない!!」

「うわ、その男にすげー惚れてんじゃん」

 ふたりで会話を交わしながら交差点の角を曲がると、アパートの前に人影が見えた。スラリと背の高い男性だ。
 暗がりとはいえ、なんとなく見覚えのある人だなと思って近付いて行けば、外灯に照らされた人物の顔が志賀さんだとわかって心臓が止まりそうになった。

「え、なんで?!」

 驚きすぎて、心の声が思わず口をついて出る。
 右手で目をゴシゴシとこすってみたが、幻影ではないようだ。

「もしかして、あの人?」

 聖くんがそっと耳打ちするように小声で聞いてきたので、無言でコクリとうなずいた。

「じゃあ俺はここで。ちゃんと話しなよ? 身体だけ差し出すのはダメだからね」

「聖くん、送ってくれてありがとね」

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