無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 志賀さんが私の表情を読み取り、バツ悪そうに顔をしかめた。
 そうだ、ほかの会話をしているうちに一瞬忘れそうになったけれど、私になにか用事があったから志賀さんはここまで足を運んだはずだ。

「志賀さん、私になにを話そうとしたんですか?」

 下から覗き込むようにして志賀さんと視線を合わせると、彼の表情がふわりと和らいだ。

「この前話した例の……大病を患っている恩師が、今日退院したらいい」

「え! ほんとですか? よかったー!」

「入退院の繰り返しみたいだけど、今は体調がいいってことだもんな。ほんとによかったよ」

 私は一度も会ったことがない人だけれど、退院したと聞いてうれしくてたまらなかった。
 少しでも元気になってもらいたい。先生を尊敬している志賀さんのためにも。

「神野さんには話を聞いてもらったから報告しておきたくて。別に明日話してもよかったんだが、気が付いたら足が勝手にここに向いてた」

「うれしいです! ありがとうございます!」

「礼を言うのは俺のほうだろう。そこまで喜んでくれるとは思わなかった」

 ピョンピョンと今にも飛び跳ねそうに体を揺らす私を見て、志賀さんが「落ち着けよ」と言いながらあきれ笑う。

 きちんと話をしろと聖くんから助言をもらったばかりだけれど、今日はやめておこう。
 この流れで真剣な顔をして告白をする勇気が出ない。
 それに、志賀さんの今の笑顔を崩したくないと思ってしまった。
 うれしい報告をしに来てくれた彼を、私の発言ひとつで困らせたくはない。

 志賀さんの綺麗な笑顔をずっと見ていたい。
 それが叶うなら、告白などどうでもいい。
 この気持ちを伝えようが伝えまいが、私が志賀さんを好きなことはやめられそうにないから。

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