無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「志賀さん、顔が暗いですけどどうかされました?」

 ミーティングがてら、一緒にランチに行きませんかと四方さんに誘われ、近くのイタリアンレストランに入って食事をしていても、俺は神野さんのことばかり考えていた。

「すみません。なんでもないです」

「サンセリテホテルに新しいレストランができたんですけど、ご存知ですか? すごい人気らしいですよ。よければ今度ディナーに行きません?」

 雑誌から抜け出たハーフモデルかのような四方さんなら、ほかに誘う男はいるはずなのに、どうして俺なんだ。

「美人の四方さんにこれ以上近付いたら、大勢を敵に回しそうなので遠慮します」

「あら、断られちゃった」

 四方さんはムッとするでもなく、おどけるように笑って肩をすぼめる。
 クライアントを怒らせるのはまずいので、彼女の反応を見て俺は内心ホッとした。

「好きな女性がいらっしゃるの?」

「……気になっている人なら」

 四方さんから質問を受けたとき、真っ先に頭に浮かんだのは神野さんの顔だった。
 なぜだかわからない。だけどここ最近の俺は、彼女の行動を気にしてばかりだ。

「私もそういう男性がいるんです。私ははっきりとその人のことが好きなんですけど、残念ながら向こうが私を好きかどうかわからないんですよ……」

 スタイル抜群の美人がなにを言っているのだ、と思う反面、自意識過剰ではないところには好感を持てる。
 それに、人を好きになるポイントは、容姿がすべてではないのは俺も理解している。

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